Thursday, March 13, 2008

ピンチはチャンスだ

ハンカチの木  第7号
        南山高等学校(男子部)3年生 学年通信  2007年10月29日

                      ピンチはチャンスだ

 諸君は、日光の「眠り猫」で有名な左甚五郎という名大工を知っていると思いますが、甚五郎はどのように仕事をしたかと言いますと、仕事の注文が来てもすぐにはしないで、ほったらかしにして、飲んだり遊んだりして、いざ期限がいよいよ近づいてきたというときになって始めて腰を上げ、仕事に取り掛かり、仕事の鬼になり、徹夜もいとわず、ぶっ続けに仕事をして、見事な大工仕事をしたといいます。「なぜ締め切りギリギリまで仕事を放りっぱなしにしておくのか」と聞かれて、甚五郎は「切羽詰ったほうが、いい仕事ができる」と言ったそうです。

 似たような話に、中国の秦の時代の末期に、漢の高祖となった劉邦の家来に韓信という名参謀がいて、敵の項羽と戦った際に「背水の陣」を取りました。諸君も知ってのとおり、川を背にして敵陣に対峙するのは当時の戦略では非常識でしたが、韓信は部下をうしろに一歩も引けないという生死を賭けたギリギリの状態に追い込み、そこから兵士一人ひとりの必死の力を引き出し、戦いに勝ったのです。

 「火事場の馬鹿力」もそうです。私の小学校の担任の先生の話ですが、前任校で、小火(ぼや)があり、音楽教室に火が燃え広がっていき、あわやピアノに燃え移るというギリギリの瞬間、その先生ともう一人の先生の二人だけでグランドピアノを持ち上げ、校舎から外に運び出したそうです。火事がおさまって、ピアノを中に運ぼうとしても、とても二人だけでは運べなく、4,5人で運び入れたそうです。後から考えても、どうして運び出すことができたか、どこからあんな底力が出たのか分からなかったそうです。

 ここまで読んで、賢明な諸君は私が何を言わんとしているか、もうお分かりでしょう。大学入試が近づく中、諸君一人ひとりが必死の思いで、受験勉強に取り組んでいる様子が手に取るようによく分かります。本当に諸君は今一生懸命勉強しています。頑張っています。中学時代に、いや、高2時代まで、全くといっていいほど何も勉強していなかった人も、今猛烈に勉強しています。精神的にも肉体的にもこの受験勉強はきついものです。高校入試を経験していない諸君にとっては、今までは順調な南山生活でしたが、今は逆境のピンチといってもいいでしょう。

 しかし、このギリギリのピンチは君が持っている全ての能力が発揮され、フル回転し、自分では思いもよらなかった力が湧き出る時期でもあるのです。人生、今のように切羽詰ることはそう度々はありません。このピンチは君の全能力を発揮する最高のチャンスなのです。自分の隠れた才能を最大限に引き出す最高のチャンスなのです。第3者の立場に立つことは難しいでしょうが、できれば自分を第3者から眺め、自分は今、人生最高のチャンスに恵まれているのだ。このチャンスを最大限に生かし、自分がどれだけ力を持っているか発見してみよう、と考えるのが大切です。それにはギリギリの切羽詰った今を生かすことです。頑張って下さい。

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