Monday, July 20, 2009

[51] 携帯電話妨害器

 あるミッション・スクールの卒業式で、神父が聖書の一節を朗読していた。卒業生、在校生、保護者、教職員一同は起立し、頭を下げて心静かに朗読を聞いていた……。 突然、携帯電話の着信メロディがけたたましく式場に響き渡った。厳粛な静寂が一瞬のうちにぶち壊しになり、参加者は気分を害した。卒業生を送り出す寂しさを噛みしめていた金田先生も大いに憤慨した。
 金田先生は家に帰っても怒りが治まらず、ブログに今日の不愉快な出来事について書いた。数日後、ロンドンの携帯電話妨害器メーカーからコメントが寄せられた。なんでも、「当社の携帯電話妨害器は、スイッチを入れさえすれば、周りの携帯電話の受信も発信も妨害します」というものだった。種類もハンディー型、ハイ・パワー型、講義用、室内用、野外用といろいろあった。先生は二十メートル範囲を妨害するハンディー型を注文した。授業とか電車やバスの中で役立ちそうだ。
 約二週間後、携帯電話妨害器が送られてきた。翌日、先生は妨害器を持って学校に行き、教室に行く前にスイッチを入れた。効果てきめん。授業中に机の陰で携帯をいじくっていた生徒は、その機能が急に停止してしまい、うろたえた。先生は通勤途中でも妨害器を使った。携帯電話に大声でガーガー言っている男を見ると、こっそり妨害器のスイッチを入れた。男は驚いた顔をして、携帯が壊れたと思い、話すのを止めた。先生は皆のためにいい事をしているのだと思った。
 先生は映画館、劇場、図書館、美術館等に行く時には、いつも妨害器を持って出た。先生の行くところ携帯電話での会話は皆無となった。先生は「平穏を愛し騒音を憎む人々」の救世主のように感じた。
 ところが、先生は次第にごう慢になり、妨害器を公共のためではなく、自分個人のために使うようになった。休日に先生は近くの公園のベンチで読書をするのが好きだったが、読書中に携帯電話で話している人を見るとスイッチを入れた。双方向の会話ならまだしも、一方通行の会話は耳ざわりだった。
 ある日、先生がベンチに座って本を読んでいると、ヤクザ風の男がしわがれた声で携帯電話にどなっていた。先生は妨害器のスイッチを入れ、男をちらっと見た。男は携帯が急に故障してしまい、不思議に思って、また電話番号のキーを押した。しかし電話がかからない。男は「畜生!」と言って携帯電話をにらみつけた。先生は「ざま―見ろ」と、内心笑いながらもう一度男を見た。すると、男は先生の方に近づいてきて、ドスの利いた声で言った。
「てめー、今、俺に眼をつけたな」
「いえ、いえ、そんなことしてませ….」
「しらばっくれるんじゃねー。やい! 貴様、喧嘩売ろうっちゅうんか、ええん!」
「いいえ、とんでもない」
「そうか、じゃあ、買ってやろうじゃねーか」
 男は先生の襟首をつかみ身体を持ち上げた。
「あっ、止めてください」
「おう、分かった、俺を馬鹿にする気だな」
 男は先生の顔を殴った。先生は鼻血を出して、後ろによろけた。今度は、男は先生の腹を殴り、倒れた身体を蹴り始めた。 
 近くで見ていた女の人が携帯電話で一一〇番にかけたが、つながらなかった。

       殴られた はずみでスイッチ ONとなり

3 comments:

  1. お久しぶりです(・ω・)/
    先生、お元気ですか??こっちは順調です

    え~、コメするのがまた携帯の話題で笑っちゃいましたがまたします

    とりあえず、この装置があったら今すぐ欲しいです(> <;)
    この前も映画館に行ったときならす人がいたもんですから…

    by 三村 俊孝

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  2. 三村君

    久しぶりに、メールありがとう。
    cell phone jammer(邪魔?)は、実際売ってますよ。ただし海外ですが、サイトを見てください。日本では、違法のようです。
    人の携帯は really annoyingです。

    The Signal Jammer
    http://www.thesignaljammer.com/

    ではまたコメントください

    松岡

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  3. 三村君

    久しぶりに、メールありがとう。
    cell phone jammer(邪魔?)は、実際売ってますよ。ただし海外ですが、サイトを見てください。日本では、違法のようです。
    人の携帯は really annoyingです。

    The Signal Jammer
    http://www.thesignaljammer.com/

    ではまたコメントください

    松岡

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