ハンカチの木 第8号
南山高等学校(男子部)3年生 学年通信 2007年12月17日
南山高等学校(男子部)3年生 学年通信 2007年12月17日
チャンスはピンチだ
諸君は兎と亀の競争の話を知っていますね。兎は油断して一休みしているうちに亀に追い越されてしまう話です。
この「油断」という言葉の由来は何でしょうか。一説には『涅槃経(ねはんぎょう)』という釈迦入滅の意義を著した経本に「王が臣下に油を持たせて、一滴でもこぼしたら命を絶つと命じ、抜刀した者が臣下のすぐ後で見張っていた」とあるそうです。もうこれで安心だという気の緩みから、思わぬ、それこそ命を絶つような、失策をしてしまうことを戒めた話です。
『徒然草』にも同じような逸話があります。次の文です。
高名の木登りといひし男、人を掟てて高き木に登せて、梢を切らせしに、いと危く見えしほどは言ふ事もなくて、おるゝ時に、軒たけばかりになりて、「あやまちすな。心して降りよ」と言葉をかけ侍りしを、「かばかりになりては、飛び降るとも降りなん。如何にかく言ふぞ」と申し侍りしかば、「その事に候ふ。目くるめき枝危きほどは、己れが恐れ侍れば申さず。あやまちは安き所になりて、必ず仕る事に候ふ」と言ふ。
つまり、木登りの名人が、弟子を木に登らせて梢を切らせているときに、弟子が目が回るような梢の高いところにいるときは、名人は黙っていたのに、弟子が飛び降りられるぐらいの軒ぐらいの高さまで降りてきたときに「油断するな」と言った理由を聞かれて、名人は「過ちはもう安心だと思うときに生じるからだ」と言ったというのです。
ここまで読んで賢明な諸君は私が何を言わんとしているかお分かりでしょう。
先週から「決定組」のクラスができました。受験組の諸君はこれから厳しい受験に突入していくのですが、決定組の諸君は受験勉強をしなくて済むわけです。決定組の諸君にとっては、今、自分の選んだ道をどう進むかをじっくり考え、それを実行に移す好機が到来したのです。このチャンスをどう生かすかは君の心がけ次第です。
しかし、正直言って、受験勉強から開放された今、決定組の諸君は一息つくのはいいでしょうが、安心しきってしまっては『徒然草』ではないですが、思わぬ失策をしでかすのです。チャンスの中に思わぬピンチが潜んでいるのです。油断大敵です。受験勉強で全身全霊をつぎ込み、夜も緊張でよく眠られないぐらい神経をすり減らしている受験組の生徒諸君に比べたら、決定組の諸君は気を抜きがちです。今の状態は、後から来た亀に追い抜かれ、抜刀した者に首をはねられ、着地失敗で足を折るというピンチの状態にあるといっても過言ではありません。
The race is not over.(競走はまだ終わっていない)です。人生一息つくのはいいでしょうが、気が緩みっぱなしではいけません。勝って兜の緒を締めて下さい。
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