映画「2001年宇宙の旅」(原作アーサークラーク、監督スタンレー・キューブリック)の最初の場面<人類の登場>を製作するとき、スチュアート・フリーボーンが率いるスタッフたちは類人猿のお面と着ぐるみを造るのに苦労した。
彼らは動物園に行って猿がどのように牙をむき、食べ、怒り、水を飲むか等、その生態を観察した。映画でメスの類人猿が赤ん坊に授乳する場面では本物の猿の赤ん坊を使った。猿のお面をつけていると息苦しくなるので呼吸がしやすいように小型の酸素タンクを猿のお面の中に取り付けた。また、猿が唇を裏返したとき、舌や歯が本物そっくりに見えるように工夫した。さらに、太陽の光に照らされているように見せるため、100万ワットにのぼる無数の電球を使った。豹が類人猿に襲いかかる場面では、豹を飼いならしておいた。このように、試行錯誤を何度も何度も繰り返してフリーボーンは<人類の登場>の場面を制作した。
ある日、フリーボーンは、たまたま「2001年宇宙の旅」を見る機会があり、<人類の登場>場面を見たときのことを次のように書いている。
「私は我ながら、なかなか巧くできている、と思ったんだ。すると、ちょうど私の座席の後ろに家族連れが座っていて、奥さんが旦那に「あれって、本物の猿なの?」と訊いた。勿論、私は耳をそばだてたよ。旦那は「そうだよ、本物だよ」「猿にどうやって演技させたのかしら」「そりゃ、なんだね、特別に訓練したのさ」と旦那が言った。これほど素晴らしいことはなかったな。「やった、やった、でかした」と思ったね。苦労した甲斐があったよ」